一般社団法人 日本ジャズ音楽協会
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エッセイ:私とジャズ

日本で最初に近代西洋音楽を聴いたのは横浜村民だった

6/6/2025

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一般社団法人日本ジャズ音楽協会理事長小針俊郎は、当協会参加団体である一般社団法人横浜JAZZ協会の理事も務めており、同協会が毎月発行する月刊の会報誌HAMA JAZZにエッセイを連載しています。そこで友好団体である同協会の諒解のもと、当協会のホームページにHAMA JAZZ連載の原稿を一部加筆、修正を行うなどしてここに転載することになりました。今後適宜に本欄に掲載いたしますのでご随意にお楽しみください。

私は事あるごとに、ジャズは1912(明治45)年7月、北米航路に就航していた旅客船「地洋丸」に楽士として乗船していた波多野福太郎以下五人のメンバーが、サンフランシスコの楽器店で最新曲の楽譜を購入。この中には前年に発表されたばかりのアーヴィング・バーリンの「アレグザンダーズ・ラグタイム・バンド」があったこと。船の仕事を終えた後1920年開場の鶴見花月園舞踏場でこれらを演奏したことを講演会などでお話ししてきました。
協会の理事だった故柴田浩一は女性奇術師としてアメリカでも成功した松旭斎天勝が1925年に黒人演奏家を連れて帰国し、伊勢佐木町喜楽座で公演した際「爵士舞蹈的演出(ジャズの伴奏によるダンス・ショウ)」があったことを調べあげました。
いずれも1世紀前のことで、これだけでも「ジャズの街」を名乗るに十分な根拠と思うのですが、同じ北米航路の寄港地神戸にも似た出来事はあったかもしれません。ならば横浜にしか起こり得ない外来音楽との接点とはなにかと考え、思いついたのは1854年3月31日(嘉永7年)の日米和親条約締結に際し、ペリー提督率いる七隻の米艦隊の軍楽隊の演奏です。調べると一行は沖合に停泊させた旗艦ポーハタン号他からまず銃剣で武装した水兵が上陸整列し、そこにペリー以下の将官が応接所に入るという段取りです。この時アメリカ国歌が演奏されたと記録にあります。それこそが日本庶民である横浜村民が聴いた最初の近代洋楽であったことに間違いないでしょう。
日本人がはじめて聴いた西洋音楽は16世紀に遡ります。京都などに盛んに建造されたカトリック教会にはオルガンがありました。教会で奏された音楽は時代的に考えてグレゴリオ聖歌であったでしょう。その後キリシタン禁圧、鎖国(1639年~1854年)へと進むことは日本史の教えるところです。
この間215年。西洋音楽はバロック、古典派、ロマン派と爆発的な発展期を経ています。ではペリー艦隊軍楽隊の音楽はどのようなものであったのか。残念なことに軍楽隊に対する観察記録はありません。そこで近似の記録を探すと6年後の1860年、日米修好通商条約批准書交換のため米国差し回しのポーハタン号に乗って横浜港を出港した万延遣米使節団の一員、玉虫左太夫の日記に相応の記録があることが分かりました。以下中村洪介著「西洋の音、日本の耳」(春秋社)より引用します。
まず著者の調査によると、当時の米国艦隊の軍楽隊の人数は9人乃至20人程度であったようです。編成は鼓笛とありますが喇叭という文字もあるので現代吹奏楽の体を成していたと思われます。以下玉虫日記の一部。
「港内ヘ入ントスルトキ、高ク我国ノ旗章ヲ掲ゲ祝砲ヲ発ス。且音楽を奏ス。扨夜戌牌太鼓・小鼓ニ笛ヲ交ヒ撃ツ、終テ砲ヲ発ス」
この時に奏された音楽は当時の米国国歌(現在の曲とは異なる)と推定されます。では玉虫はこれをどう聴いたのか。
「音楽朝夕奏ス。尤音声和少ナク極メテ野鄙ナリ、聞クニ足ラズ。」
「和少ナク」は調和せずの意。「野鄙」と決めつけています。玉虫左太夫は決して無教養な人物ではありませんでしたが、初めて接する異文化の、それも文学や美術と異なり、生理的に訴えてくる音楽は味覚と似て強く拒絶反応が出るものでしょう。
遣米使節一行には勝海舟が艦長を務めた咸臨丸乗員もいました。以下は咸臨丸がサンフランシスコに入港したときの歓迎演奏の記録。
「楽師十四人奏楽せり。其音雄壮にして絶えて吾国の音律に殊なり欧羅巴・米利堅にてハ皆海陸軍に用ゆる処なりといへり」(木村喜毅『奉使米利堅紀行』)
当時の横浜の村人も「野鄙」と感じる人も「雄壮」と感じる人もいたでしょう。
しかし幕末を生きた日本人は開国するとたちまち洋楽というものに馴染んでいきます。明治に入り数多の秀才が欧米に遊学し、横浜市歌を作詞した森鴎外をはじめ、上田敏、島崎藤村、永井荷風など音楽に魅せられた者も少なくありません。彼らの渡欧渡米がもう少し遅ければジャズに馴染んだかもしれません。
では今回もこじつけで締めくくります。ジョージ・ガーシュウィンの作品です。
キッスなんて大嫌いな男の子がいました。いま彼はすこしだけ成長して女の子にトキメキを覚えています。そして彼は歌います。「How Long Has This Been Going On?」いつからぼくはこんなふうになっちゃたんだろう?
人生は経験によって変わるものという教えです。



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